九州の天然炭酸泉

 

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写真1:ガニ湯

ガニ湯露天浴槽:pH7.1

950ppm、38℃


写真2:奇抜な建築のラムネ温泉館


写真3:ラムネ温泉内湯

ラムネ温泉内湯浴槽:泡こそ付きませんが、高濃度に近い中濃度炭酸泉です。

900ppm、41℃


写真4:ラムネ温泉露天

ラムネ温泉露天浴槽:pH6.3

1,200ppm、32℃

 高濃度天然炭酸泉は全国に散在しますが、実際には、火山の多い九州は数少ないと言われる炭酸泉の宝庫です。

 特に湧出量が多い火山性炭酸泉では、火山活動の周辺部にあたる長湯温泉を始めとする九重(15万年以降の噴火活動)周辺、妙見温泉を含む新川渓谷温泉郷や高原温泉郷を抱える霧島(30万年以降)周辺は昔から有名ですが、あまり知られていない炭酸泉として雲仙(50万年以降)の東側の島原炭酸泉をあげることができます。

 不思議なことに同じ火山でも、 活発な噴火活動を行っている桜島(2.2万年前以降)周辺にもあるようですが、有名ではありません。

 同じように、阿蘇山(27万年前以降)には遊離炭酸ガス濃度300ppm程度の温泉がありますが、1,000ppmを超える高濃度炭酸泉はありません。ただし現在知られていないだけかも知れません。

 大分県国東半島の北東約4kmに浮かぶ姫島は、200万年頃前に誕生し、最後は30〜10?万年前ごろに活動した火山島です。含有するヘリウムガスの同位体分析からマグマ由来とされています(星住ら、私信)。やはり古い火山活動(大岳、約140万年前)に関連すると思われる炭酸泉が宇土半島の金桁鉱泉から天草の弓ヶ浜温泉にかけて点在します。

九重炭酸泉の旅(1泊2日の旅程でどうぞ)
 

 炭酸ガス濃度・泉温・湧出量・泉質・井戸数・収容人数の総合で「日本一」の長湯温泉です。炭酸泉は湯温が低いのが一般的ですが、ここは世界有数の高温炭酸泉地帯です。昭和初期から炭酸泉の価値を見いだし、本物の温泉をまちおこしに活用してきた日本における炭酸泉活用の先進地です。2011年から温泉療養を補助することを制度化する社会実験を行っています。

 開湯300年を2010年に迎えた長湯は、九重連山の南東山麓の丘陵地にあって、標高450m、芹川沿いに湧く山あいの温泉地です。人口約2,900人、JRの駅もなければ、国道すら通っておりませんが、年間に70〜80万人もの集客があります。狭い地域に源泉数51、湧出量毎分4.5トン、泉温30〜50℃、遊離炭酸ガス濃度が中濃度300〜高濃度2,200ppmと日本屈指の炭酸泉地帯であることは、疑う余地はありません。

 現在一般に公開されている源泉では、大丸旅館の外湯=ラムネ温泉館の露天風呂が遊離炭酸ガス1,200ppmが最も多く、皮膚や体毛への泡付きが良いです。ただし、泉温が32℃ですから、冬季は41℃の内湯と交互浴します。

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写真1:七里田温泉本館


写真2:改装後の下ん湯

 トイレと内装がきれいになりましたが、深すぎる浴槽はそのまま。


写真3:下ん湯の泡付き


写真4:下ん湯浴槽

下ん湯浴槽:pH6.0

1,500ppm、36℃

 長湯から西に6km、車で10分弱の七里田温泉の歴史は古く、弥生時代から古墳時代にはすでに温泉が利用されていたと思われる多数の遺跡があります。

 現在は地元住民の温泉組合共有の共同浴場です。新館から100mほど川沿いに下ったところにある古びた2階建ての下湯(したんゆ)は地元住民の共同風呂だったのですが、一時閉鎖されました。しかし、炭酸泉ファンの強い要望に応えて再開された秘湯中の秘湯です。

 この温泉は、自然湧出のため、動力がなかった時代の浴場を思わせる古典的な造りをしています。自噴位置に合わせて古びた脱衣場から3段の落差1mほど階段を下りて、通常6名、最大8〜10人が入れる約65cmもの深過ぎる浴槽に、泉温36℃、高濃度炭酸泉(数回の実測値は1,500ppm)が毎分約100ℓで2ヶ所に分けられた湯口から小川のように掛け流しされているのです。2011年湯船以外が改装されました。

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写真1:山里の湯受付


写真2:浴槽

小浴槽:pH6.2

1,300〜1,400ppm、38℃


大浴槽:pH6.2

1,200ppm、37℃


写真3:浴槽の動画


写真4:すばらしい泡付き


 九重の北からの入り口豊後中村から九酔峡を経て、九重夢吊り橋の駐車場から長者原方面へ歩いて5分。吊り橋から最も近いのが、筌ノ口(うけのくち)温泉・山里の湯です。突如湧き出した高濃度炭酸泉が惜しげもなく掛け流しされています。

 汲み上げの際生じた気体状態の炭酸ガスも含まれて、吐出口に被せたガーゼから細かな泡が勢い良く出ています。しかも、小浴槽での湯温が体温以上の38℃で源泉掛け流し・泡付き温泉です。高濃度炭酸泉でありながら、体温より高い炭酸泉は世界的にも稀有な存在です。

 泉質は、小浴槽中央の実測値でpH6.7の中性で1,300〜1,400ppmという高濃度。含二酸化炭素-ナトリウム・マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩・硫酸塩・塩化物泉のミネラル豊富な泉質です。

 利用者の便宜のため、自炊の宿泊所を併設しております。超お薦めの温泉です。

筌ノ口温泉・山里の湯

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写真1:白泉荘水汲場

硬度 不明

pH5.4、1,700ppm、8℃


写真2 : 白水(しらみず)鉱泉

硬度 58

pH5.6、2,200ppm、9℃


写真3:黒嶽荘

硬度 89

pH5.6、1,800ppm、9℃


写真4:よいやな

硬度 253

pH5.7、1,900ppm、12℃

 NHK教養バライテー番組の「ためしてガッテン」(2013.7.3放映)の『九州の炭酸王国』として紹介されたのは、この地のことです。

 九重連山の東端の黒岳(標高1,586m)斜面の北東山麓にあたり、標高約700m、黒岳・平治岳登山口の男池駐車場からは車で数分です。大分川の支流阿蘇野川の流れる地域で1km四方に4ヶ所の有料水汲場が集中しています。白水とは炭酸ガスで濁って見えたからです。

 背後は直ぐに黒岳が迫り、農業耕作地がありませんので、農薬や化学肥料の汚染がまったくありません。この豊富で低温の伏流水に炭酸ガスが効率良く溶け込むことで、高濃度炭酸泉が大量かつ絶えることなく生成されています。

 4ヶ所ともほとんど地表に自噴し、小川をなしたり、黒岳登山口の一つである黒嶽荘では10畳ほどの炭酸泉池を造っています。遊離炭酸濃度はどこも実測2,000ppm前後の高濃度ですが、源泉温は低く年中10℃前後です。どの炭酸泉も口当たりが爽やかな炭酸泉ですが、ミネラル含有量では白水鉱泉の58(軟水)から阿蘇野川下流の「よいやな炭酸水」の253(硬水)まで幅があります。よいやなはボトリングを始めました。

大分県阿蘇野炭酸冷泉地帯・

白泉荘/黒嶽荘/白水鉱泉/よいやな

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写真1:極楽温泉

水車が目印


写真2:極楽温泉源泉井戸

源泉:透明 pH5.7

2,200ppm、25℃


写真3:湯之元温泉

加温浴槽 :茶褐色

50ppm、41℃


写真4:湯之元温泉

源泉浴槽:透明 pH5.7

1,800ppm、22℃

 霧島火山の生み出す炭酸泉地帯の宮崎県側のたかはる温泉郷は、サンヨーフラワー温泉のように40℃を超える炭酸泉もありますが、炭酸ガス濃度は1,000ppmを少し超える程度で、泉温が高いためガス抜けが多く、肝腎な湯船の濃度は中程度です。

 それとは別に、この温泉郷には源泉温20数℃と比較的低いながら高濃度の炭酸泉が湧出します。極楽温泉と湯之元温泉の源泉遊離炭酸ガス濃度はそれぞれ2,200ppmと1,800ppmの高濃度です。

 これらの温泉施設の源泉は、ともに鉄分やその他のミネラルが多いながらも無色透明ですが、沸かし湯は加温過程で炭酸ガスの大部分が抜け空気と接するため、直ちに酸化・沈殿して茶褐色の濁り湯となります。残念ながら浴槽では、炭酸入浴剤程度の50〜100ppmしか残っていません。高濃度炭酸泉の源泉風呂も用意されてはいますが、夏場以外は冷たくて入れません。交互浴するにも20数℃は低すぎます。

たかはる温泉・

極楽温泉湯之元温泉

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写真1:妙見温泉


写真2:田島本館キズ湯

源泉浴槽 pH6.3

700ppm、41℃


写真3:自炊部のある旅館


写真4:自炊部

 霧島火山の南西麓の鹿児島県の炭酸泉地帯は、天降川(あもりがわ)中流域に並ぶ、妙見温泉、安楽温泉、新川温泉、塩浸温泉、日之出温泉など新川渓谷温泉郷のある霧島市牧園町一帯です。

 1866年幕末の志士、坂本龍馬が妻お龍を連れて、寺田屋騒動で負った手傷を癒すため、薩摩藩の西郷吉之助や小松帯刀(たてわき)のはからいで療養兼日本初の新婚旅行したとされる新川渓谷温泉郷一帯の炭酸泉は、一般に源泉温が高く40数〜55℃もありますが、遊離炭酸ガス濃度はいずれも600〜1,000ppm程度のミネラルに富む中濃度炭酸泉です。

 霧島山系の麓であるため湧出量の豊富な自噴井戸が多く、妙見温泉では川岸に自噴しているのを見ることができます。

 掛け流しの温泉宿には、熱交換器で湯温を適温にかけ流しホームページも充実している石原荘のような高級旅館から、湯治客用に自炊専門旅館や自炊部を設けている庶民的な旅館やホテルが多いのも特徴で、今でも固定客が定期的に中長期滞在する湯治文化を色濃く残している湯量豊富な昔ながらの風情を持つ温泉郷です。

新川渓谷温泉郷・

妙見/安楽/塩浸/新川/日之出

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写真1:第一姫島丸


写真2:伊美港からの火山島=姫島


写真3:姫島特産黒くない黒曜石


写真4:源泉湧出井戸

源泉 毎分140ℓ、pH6.0

1,800ppm、25℃


動画1:炭酸ガスの気泡と共に自噴する源泉


写真5:残念な加温法で源泉が台無しになっている姫島村健康管理センター

 大分県の国東半島の伊美港から村営フェリーで25分程の海上6km沖の瀬戸内海にある東西7km・南北4kmの東西に細長い火山島です。「ひょっこりひょうたん島」を思い浮かべます。200万年程前から10?万年頃まで火山活動があり、珍しい灰白色の黒曜石の産地として有名で、縄文時代から弥生時代の石斧や矢尻として広く西日本の遺跡に分布しています。

 人口2,500名、公務員ワークシェアリング、車エビ、キツネ踊り、親子2代の長期首長などユニークな存在で独自路線を行く村です。

 島の東端にある拍子水鉱泉は含二酸化炭素-マグネシウム・カルシウム-炭酸水素塩冷鉱泉で、多量の炭酸ガスの気泡を含んだ状態で自噴しています。その湧出量は毎分140ℓ、実測pH6.0、実測遊離炭酸ガス濃度1,800ppm、源泉温25℃の冷鉱泉です。直ぐ側にある姫島村健康管理センターの浴槽は、ボイラー水と混合の浴槽と源泉そのまま掛け流しの小浴槽からなります。10人ぐらいが同時に入浴できる程度の施設です。

 問題は炭酸ガス入りの還元泉であるべき浴槽を、混合泉浴槽を湯温を均等にするために、わざわざバイブラバス=泡風呂にしており、遊離炭酸ガスの気化と空気中の酸素による酸化という温泉の老化を促進することで、せっかくのミネラルに富んだ高濃度炭酸泉を台無しにしていることです。加温のための加水は致し方ないにしても、このまったく余計な撹拌、老化促進はいただけません。

 私たちが開発した、浴槽でも泡付きの良好な炭酸温泉を実現する高濃度天然炭酸冷鉱泉加温専用の「カーボウォーマー」の導入が望まれます。本物の炭酸泉を提供すれば、村民の介護と医療の負担軽減だけではなく、島外からの中長期滞在の療養客を呼び込むことができる『宝の湯』になることでしょう。

大分県国東郡姫島村・

拍子水冷鉱泉