炭酸泉温浴

 

淡水浴とのちがい

 通常の温浴(さら湯風呂)と炭酸泉温浴(炭酸風呂)はどう違うのでしょうか。


 その違いを調べるために、実際の入浴温度での水道水温浴30分間と高濃度人工炭酸泉温浴60分間の違いを高精度温浴槽を使用して、血圧、心拍数、動脈血中の酸素飽和濃度、舌下温(体表温度)、直腸温(深部=核心温)を比較した実験の一つが下図です。



淡水温浴と炭酸泉温浴時の体温と生体情報の比較(浦川原図)


 淡水(さら湯)温浴として、40℃5分、41℃10分、42℃15分と変化させる30分間の漸温浴、すなわち湯温を段階的に上げて、体への負担を少なくする理想的な温浴をしても、個人差はありますが、入浴中は血圧・心拍数とも41℃を超えると急上昇しました。終わり頃にはとても辛く感じます。


 多くの日本人が好む湯温42℃とそれ以上は、交感神経刺激温度なのです。血液温に近いと考えられる舌下温は急激に上がりますが、核心温である直腸温は遅れて上がります。



炭酸泉温浴の特徴 --- 炭酸泉のゴールデン湯温は『38〜39℃』

 ところが、39℃の高濃度炭酸泉温浴(炭酸風呂)では、1時間の入浴中血圧は低く保たれたままで、心拍数はわずかに増加しただけです。細動脈の拡張で末梢血管の抵抗性が減り、心臓は楽に働きながら、全身の血流量である心拍出量は確実に増加しています。


 炭酸ガス分圧(=濃度)が上がることで、肺から体全体へ酸素を運んでいる酸化ヘモグロビンからの酸素放出が高まるボーア効果によって、組織や臓器での酸素と炭酸ガス交換が効果的に行われ、静脈血は酸素濃度が増して一見動脈血のような鮮血色となる動脈血化をきたします(トップ・ページを参照)。この静脈血の「動脈血化」は、さら湯でも観察されますが、炭酸泉温浴では顕著です。


 そのため、循環器レベルでの炭酸泉温浴が、有酸素運動と同等の「運動しない運動療法」と言われる由縁です。舌下温と直腸温はほとんど差がなく上昇し、全身がくまなくほぼ同じペースで加温されているのが分かります。芯から温まるとはこういうことです。


 局所での血流が増大することは、老廃物(乳酸)や発痛物質(ブラジキニン、セロトニン、ヒスタミンなど)を洗い流し、肝臓での解毒作用を促進し、リンパ球による免疫学的な監視、壊れた組織の修復などを促進します。


 炭酸温浴の最適湯温は、炭酸泉の血管拡張、副交感神経刺激作用(=リラックス作用)と温浴による温熱作用、それに体への負担から、深部体温より1〜2℃高い、発熱と同じレベルの38〜39℃であることです。


 個人差もありますが、1時間入浴しても辛さを感じることはありません。20分間程度の入浴により、体温が1℃程度上がります。もし、辛さを感じるようでしたら、入浴時間と湯温を調整して下さい。ただし、気温が高い真夏では、1℃低い37〜38℃が適温です。


 炭酸泉は体感温度が2〜3℃上がるため、40℃以上の炭酸泉はとても熱く感じますので、おのずから炭酸泉の適温38〜39℃での入浴温度になります。


 動脈血中のヘモグロビンの酸素結合率を示す酸素飽和度SPO2は、入浴前97〜98%でしたが、淡水温浴と炭酸泉温浴の両方とも入浴中は99〜100%を示しました。入浴中に深くゆっくりとした呼吸をすることに心がけます。



体温より低い炭酸浴では体温低下をきたす

 高濃度炭酸泉温浴では、血流が増大することで、体温上昇は加速されますが、体温より低い炭酸浴ではどうでしょうか?


 血流が良くなる分、核心温を含む全身の体温低下が加速されるのです!極めて精密な温度管理ができる特殊浴槽と精密温度計を利用して、体温よりわずかに低い35℃で20分間の炭酸浴の体温への影響を示したのが下図です。



35.0℃での炭酸浴と体温低下(浦川原図)


 炭酸泉の35℃は不感温度域内でまったく寒くは感じませんが、20分間の入浴で舌下温では0.3℃、深部体温である直腸温でも0.1℃の明確な体温低下をきたしました。


 これが31〜34℃であれば、なおいっそうの体温の低下をきたします。熱が籠もって熱中症を発症する真夏以外の季節では、体温より低い高濃度炭酸浴は血流が良くなる分、体温低下を促進するのです。温熱効果は望めないのです。



水分補給をお忘れなく

 このことから、炭酸泉と温熱の両効果を最大限引き出す意味で、38〜39℃の高濃度炭酸泉温浴は、体への負担が少なく、より安全に長時間入浴できるのが分かります。


 勿論入浴中は気付かなくてもかなりの発汗をしますから、梗塞の原因となる血液の濃縮・粘性上昇を防ぐため、入浴前後にはコップ2〜3杯分、合計500mℓ程度の水分を忘れず補給します。特に高齢者は渇きの感覚が鈍っているので意識的に給水します。



炭酸泉温浴時の注意点

 このように秀でた生理・薬理作用を持つ高濃度炭酸泉ですが、副作用が全くないわけではありません。


 低血圧による立ち眩み、副交感神経刺激で腸管運動が促進され下痢がひどくなる、リバウンド=好転反応として発疹がでる、自律神経障害を伴う中〜重度のパーキンソン病での血圧管理に注意が必要とされています。肺の機能不全の慢性高炭酸ガス血症(足湯は問題なし)では増悪するなど少ないですが、見られることがあります。


 これらの副作用が疑われる場合、炭酸泉温浴を中止したり、入浴時間を最初は少なくし徐々に延ばす、出浴時に足先や手に冷水をかけ交感神経反射による血圧上昇を起こすことです。


 また、頭皮を含め全身の血流が促進されるため、嬉しい副作用として毛髪の発育促進と白髪の黒化が知られていますが、一部の人に認められるだけです。