天然炭酸泉加温装置『カーボウォーマー』開発

 
 
 

 人工炭酸泉装置開発の元になった天然の炭酸泉ですが、残念ながら、日本では数少ない天然の高濃度炭酸泉の9割以上は、そのままでは温浴用として使用できない泉温30℃以下の冷鉱泉です。それらを浴用のため、通常のボイラー加温すると、浴槽では肝心な炭酸ガスの約95%が抜け去ってしまいます。


 この問題は、戦時中の1944年(昭和19年)2月に出版された東京帝大 三澤敬義教授の『温泉療法』(南山堂)の68〜69ページに下記のように述べております。

『我が国の炭酸泉は多くは冷泉であるため之を浴用に供するため加温する場合適当な設備を缺(=欠)いて居り又は余り過度に加温するため鉱泉中に含有せられる炭酸瓦斯は全く逸散して、吾々が実際入浴する時には浴槽中の鉱泉は炭酸瓦斯を殆ど失って居るものが多い。それで我国に於ける炭酸泉は従来実際に於いて炭酸泉浴として治療上応用されて居らないと云っても過言ではなく、炭酸泉浴の施設とその医学的応用は我国に於いては今後大いに改善を必要とする現状にある。』(文中の旧漢字は現代漢字に変更)


と、加温時の炭酸ガス抜け問題を正しく認識し、炭酸泉の医学的応用には、加温法の改善が必須であることを指摘しています。


 また、ボイラーがない時代の昔は、加温が緩やかな釜炊きだったでしょう。それが結果として、遊離炭酸ガスの気化を防ぎ、浴槽でも高濃度炭酸泉だったと推察されます。ここに、炭酸ガス抜けを最小限化するヒントがあると思いました。


 そこで、高濃度天然炭酸冷鉱泉である船小屋鉱泉を使って、湯煎実験を繰り返し行いました。




天然炭酸泉の遊離炭酸ガス濃度と泉温のグラフ


 すると、源泉とそれを取り巻く温水との温度差が少ない条件で穏やかに加温するとガス抜けを最小限化できることが分かりました(20℃加温でも8割残存)。




 しかし実際に浴場を造るとなると、10分間もかけて湯煎で加温するわけにはゆきません。しかも、遊離炭酸ガスが絶えず抜け、湯温も下がるため、それらを補うためには、冷鉱泉の毎分数十〜60リットル程度の連続加温が必要となります。


 有機化学の研究室では、沸点と凝集点の差を巧みに使って、混合液から特定の液体成分を分ける(分留する)グラハム冷却器と呼ばれる冷却管がごく普通に使われています。原理は、液体である冷水と高温の気体との間での熱交換です。




 この気体-液体間の熱交換を行うガラス製の理化学機器をヒントに、向かい合って流す液体と液体との間で熱交換させ、冷泉を40℃程度に連続的にマイルド加温する装置『カーボウォーマー』を開発しました(特許と実用新案取得済み)。



 目安として、20℃の源泉を加温した場合、約7〜8割の遊離炭酸ガスが保持され、15℃の源泉では約6割程度が残存することが、公開実証試験で確認しました。これで、ほとんどの高濃度天然炭酸冷泉を、遊離炭酸ガスを大半残したままで、温浴として活用する道が拓けました。

 このビデオは、ガス抜けを最小限化する高濃度天然炭酸泉の加温の原理と装置の開発、それに島原炭酸泉と高原(たかはる)・極楽温泉での公開実証試験の様子をまとめています。




加温の実例 (1)----- アマンディ佐賀大和温泉


 九州を西に横断する高速道路=長崎道の佐賀大和インターチェンジの直ぐ側に温泉宿泊施設『アマンディ佐賀大和温泉ホテル』(旧 佐賀健康ランド)があります。2008年に掘削した1,200mの井戸から高濃度の含鉄炭酸鉱泉(1,700ppm、湯温25℃、動力揚泉毎分350ℓ)が出ています。

 火山地帯ではない隆起山地の背振山のふもとで嘉瀬川沿いの川上峡に、豊富な湯量の高濃度の炭酸泉がでるのは、成因として従来の火山性、古生物の分解に由来するものとは起源が異なるようです。

 もしかしたら、紀伊半島の和歌山県で日本最長最大の活断層=中央構造線が走る紀ノ川沿いに見られる炭酸泉群と同じように、地下深いマグマの発する火山性ガスとしての二酸化炭素が地層の割れ目から上昇し、背振山の地下水層で炭酸冷鉱泉を形成しているのかも知れません。なぜなら「断層は、一般に透水性がよく、地下水あるいは熱水の通り道となるからです。」(江原幸雄著『地熱エネルギー』)

 嘉瀬川上流には弱アルカリ泉の古湯温泉もあります。これら火山と直接関係しない温泉群の成因解明が期待されます。



佐賀大和ICの直ぐ側にあるアマンディ佐賀大和温泉ホテル


 当初従来の熱交換器による加温法を試みたそうですが、肝心な遊離炭酸ガスが殆ど抜け去り、源泉を利用しながらも、酸化して赤茶けた循環浴槽と加温無しの源泉浴槽が提供されてきました。

 2012年4月現地でカーボウォーマーによる加温試験では、40℃でも1,300ppmの遊離炭酸ガスを残存することがわかりました。8月末にカーボウォーマー2台を地下ピットに設置したところ、湯口では38℃で1,400ppm、浴槽では1,200〜1,300ppmで皮膚や体毛への泡付きの良い高濃度天然炭酸温泉の掛け流し浴槽が実現しました。



営業用の高濃度天然炭酸冷鉱泉専用加温装置「カーボウォーマー」



もちろん源泉100%かけ流し浴槽内にて真珠の泡付き体感


 知人からの情報に依ると、女性の浴槽では,井戸端会議ならぬ炭酸温泉会議で見知らぬ人同士の会話が弾んでいるそうです。




加温の実例 (2)----- ひめしゃがの湯(下呂市小坂町)


 カーボウォーマーの商業利用の第2例は2019年4月15日にリニューアルオープンする下呂市営温浴施設「ひめしゃがの湯」(同月民営化)です。

 源泉は、御嶽山西麓の湯屋・下島温泉にあって、1989年掘削1,000mで自噴の井戸です。遊離炭酸ガス濃度は実測値1,600ppmで、泉温は24.0℃、間歇噴泉の平均湧出量は毎分140ℓ、低熱効率で炭酸ガス抜け・酸化をおこす巨大な熱交換器を廃止し、この度カーボウォーマー設置4機を設置しました。

 カーボウォーマー加温後の透明な加温源泉には1,500ppmもの遊離炭酸ガスが残存し、大浴槽2つのどこでも1,200ppm前後の濃度を維持し、浴槽レベルで泡付きの良い高濃度炭酸温泉になりました。



ひめしゃがの湯



「カーボウォーマー」4機と池鯉鮒式気液分離タンクの設置工事



20人以上入浴可能な大浴槽



浴槽中どこでも泡付きの良い高濃度炭酸温泉に




注:カーボウォーマーの販売と設置は全国です。

価格と設置条件等に関しては、直接共同開発したアクアシステム㈱にお問い合わせ下さい。☎092-408-2285

なお、カーボウォーマー導入にあたって、特許権者との

間で、特許実施契約(ライセンス)を締結することが必要です。

 

炭酸泉加温装置『カーボウォーマー」開発のビデオ

ビデオの内容

炭酸泉加温装置の公開実証試験(島原小涌園)

中小企業家同友会久留米支部

GIEMON(ギエモン)

小屋から生まれた新製品